シマヘビ
Elaphe quadrivirgata ナミヘビ科


  シマヘビ(成蛇)
 アオダイショウと共に日本を代表するヘビですが、筆者の経験では本種の方が人里から離れたところに多いように思われます。アオダイショウは人里で発見すると、けっこうじっくり観察することができたのですが、本種はひじょうに神経質で、観察する間もなく逃げてしまいます。山を歩いていて本種と遭遇しても、カサカサという落ち葉の間を這う音がしたかと思うと、独特の模様が一瞬見えるだけです。筆者は、野生のシマヘビの丸々全身を見たことがない気がします。いつも発見した時には、俊敏な動作で逃げて行く姿を一瞬、それも体の一部が見えただけで、残念な思いをするだけでした。それでも本種の模様は独特で、一瞬でそれと判り、他のヘビと見間違えることはありません。茶色い体と平行して走る真っ黒のストライプは、他のどのヘビとも類似性がありません。
 外国産のヘビをあれこれ飼うようになってから気づいたのですが、シマヘビのストライプ模様は世界的にもひじょうにユニークなものです。体に対して垂直に走るいわゆるバンド模様を持つヘビは多いのですが、ストライプは意外といません。コーンスネークのパターンバリエーションとしてかなりシマヘビに近いストライプが出る場合がありますが、それくらいですかね。海外のペット事情には詳しくありませんが、シマヘビもきっと海外では人気のあるヘビだと思います。
 シマヘビは、アオダイショウと同じナメラ属のヘビで、食性や生態もよく似ています。幼蛇はトカゲやカエルを捕食し、成長するにつれてネズミなどの哺乳類も食べるようになるところもアオダイショウに似ています。アオダイショウは、木に登って鳥のヒナや卵も食べますが、シマヘビはあまり木には登らず、地上性の動物を駆ることが多いそうです。その辺はアオダイショウと上手く棲み分けているんですかね。ヘビを捕食することも多く、自分より小さなヘビなら猛毒のマムシでさえ餌の対象です。共食いもするそうですから、飼う場合は複数飼育はダメですね。

防護姿勢。
丸くなるのはロイヤルパイソンの専売特許ではない。
 爬虫類の飼育を手がけるようになってから、親しくなったショップの方に、生後間もない幼蛇を譲っていただき、初めてシマヘビを飼うことになったのですが、俊敏すぎて手がつけられないようなことはなく、意外に扱いやすいので驚きました。ハンドリングにもそれほど苦労しませんでしたし。
 幼蛇のうちはマウスは食べないだろうと、最初から強制給餌で飼育に臨みましたが、しばらくそれを続けるうちに、マウスを近づけると口を開けるようになり、やがて人の手からマウスをもらって食べるようになりました。人間を見ると寄ってくるってことはなかったですが、マウスを近づけるとすぐに反応するようになるまでにそれほど時間がかからなかったように思います。このヘビが貪食で広い食性を持つことが伺われます。まるで日本のキングスネークと呼称してもいいくらいです。
 あまり大きくないケージにとまり木を入れて飼育していましたが、樹上性ではなく徘徊性のヘビと言われるわりにはけっこう木に登って日光浴をしていたりしましたよ。馴れるとシェルターにこもるよりも、とまり木に巻きついていることの方が多くなりました。

  シマヘビ(幼蛇)
 シマヘビの飼育の醍醐味は、なんと言っても成長に従って体のパターンが変化してくるのを観察することでしょう。それはアオダイショウも同じで、幼蛇のうちはかなり鮮明なハシゴ模様が見られるのですが、成長するにつれて消失します。シマヘビの場合は、幼蛇のうちは淡いハシゴ模様で、やがてそれが見事なストライプに変わって行くのです。その変貌ぶりはかなり劇的です。
 そしてハシゴ模様からストライプへ移行するプロセスで、アオダイショウの幼蛇とひじょうに似ることがあります。別項のアオダイショウのところで、幼蛇がマムシと見間違えられることが多いと記述しましたが、それならシマヘビの幼蛇も同じように見間違えられそうです。ヘビにそこそこ詳しい人が、本種の幼蛇を発見し、これはマムシではないと断じて持ち帰って育てたところ、アオダイショウだと思っていたものがシマヘビになった、なんてこともありそうです。
 このように幼体と成体で体のパターンが変わる動物はけっこういますが、それってどんな意味ああるのでしょう。ヘビの仲間では、ニシキヘビ科のグリーンパイソンがひじょうに顕著で、黄色や濃いレンガ色の幼蛇が、やがて目が覚めるような見事なグリーンに変貌します。アゲハチョウの幼虫では若令幼虫は明らかに鳥の糞に擬態した地味な色あいですが、終令幼虫になると同じ虫とは思えない緑色になり、今度は植物と見分けづらくなります。加えて威嚇効果のある目玉模様が出現します。アゲハチョウの幼虫の色彩変化の理由付けは比較的簡単です。小さい内は鳥の糞に擬態していても終令幼虫のサイズになると、さすがにそんなにデカいウンコはないだろうってことになるので、植物への擬態やそこから飛び出してくる危険な生き物への擬態をして身を守るわけですね。ところがヘビの場合は理由がよくわかりません。シマヘビやアオダイショウの幼蛇のハシゴ模様は、周囲の自然環境に溶け込みやすい模様ではあるようです。ならばそれを成長したら破棄するのはどうしてでしょう。大きな体にハシゴ模様だと、かえって目立ってしまうのでしょうか。  ネット上をあれこれ検索していると、シマヘビの成蛇のストライプ模様は移動していても止まって見えるような効果があり、動きが目立たないという記述がありました。なるほど、ハシゴ模様の場合は細かなパターンの移動が激しいですが、ストライプだと移動していることが目立ちません。静止しているものは動いているものに比べ視認しにくいものです。そう考えるとシマヘビの成蛇のストライプは身を隠すのに効果的なのかもしれません。逆に幼蛇のサイズでは、それよりも環境に溶け込みやすい模様であるほうが有利なのでしょう。
 シマヘビのストライプ模様の、止まって見える移動術という考え方はひじょうに説得力があるように思えました。では、なぜ多くのヘビたちがこれを採用しないのでしょう? 同じシマ模様でもストライプよりもバンドが多く採用されているのはどうしてなのでしょう? バンド模様はハシゴ模様と同じように模様の移動がよく目立ちます。コントラストの顕著なバンド模様の警戒色効果の方が、身を守るのに効果があるのでしょうか。シマヘビのストライプは、身を守ることよりも、獲物に気づかれずに接近するのに効果があるのかもしれませんね。
 ところが、せっかくのストライプが個体ごとの色彩変異で台無しになってしまうことがあります。カラスヘビの異名で知られるシマヘビの黒色変異個体では、全身が無地の黒色で体側に白い斑紋が残るものや、ほぼ完全に真っ黒なものが存在しますし、白色変異いわゆるアルビノやハイポメラニスティック(黒色素減退)もいるようです。
 シマヘビは、ヘビの中でも比較的飼育しやすいヘビです。コーンスネークと同じで、冬場は冬眠させることもできますし、加温して活動させておいても問題ありません。餌づきも良く、人から餌をもらうくらいに馴れるのにもそれほど苦労しないでしょう。ただ、ハンドリングの時などに逃げられないように注意が必要です。その辺はコーンスネークのようなわけには行かないでところです。繁殖を狙うには雌雄のペアを入手する必要がありますが、同居はさせない方がよいです。シマヘビにはヘビ食いの習性があるからです。また、繁殖期のオス同士は闘争するらしいです。もしも広いケージが用意できるなら、複数のオスと1匹のメスを一時的に同居させて、オス同士の闘争を観察できるかもしれません。ボアやニシキヘビの繁殖では、1頭のメスに対して2頭のオスを導入して繁殖行動を促すという方法が採られることがあります。シマヘビの繁殖にもこれが応用できるかもしれません。筆者はこうした繁殖方法を試したことがないので、お勧めはしませんが、どなたか試してみて結果を教えていただければ大変嬉しいです。

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