アオダイショウ
Elaphe climacophora ナミヘビ科


  アオダイショウ (幼蛇)
 日本各地に広く棲息し、昭和中期までは人家の近辺でもよく見かける大変なじみ深い動物でした。人と共に暮らす動物とも言われ、人けのない山野よりもしろ人里やその付近に多く棲息していました。山にはどちらかと言うとシマヘビの方が多く、本種は人家の屋根裏や縁の下、田畑や人里に近い林などでよく見かけたように思います。あの頃はかなり都会化が進んだところでも本種を見かけることがありました。
 彼らがどうして人家の付近に多かったかと言うと、同じように人と共に暮らす動物であるネズミやスズメ、ヤモリを餌にしていたからですね。あと、田畑にはカエルやトカゲがいますし。アオダイショウは、幼蛇のうちは外温動物食いで、成長するに従ってネズミなどの内温動物やその卵を狙うようになります。生後間もない幼蛇にとって大人のネズミは、餌ではなくむしろ自分を食べる外敵です。なので母親はネズミの多い人家から離れた場所に産卵し、幼蛇はトカゲやカエルを捕食して成長し、大きくなったら人家に戻ってネズミや鳥の卵を狙うようになるわけです。
 全長1.5〜2.5メートル、まれに3メートル近くにまで成長すると言われるアオダイショウは、日本最大のヘビです。一見してグレーの地味な色彩ですが、やや青や緑を帯びており、個体によってはそれがかなり強く出ます。この大きなヘビについてむかしの文献は、大蛇(ダイジャウ)あるいは青蛇(アオジャウ)と記述しており、アオダイショウとは、青大蛇が変化した呼称であるという考え方もあるそうです。あるいは、ヘビの大将という意味を含んだ命名であるとも。

  木登り
 海外のマニアの間では、ジャパニーズラットスネークの名で知られ、CB化も進んでおり、そこそこ人気があるようです。本種のCBは、温厚で人にもよく馴れ、飼育繁殖ともに容易なヘビとして親しまれているそうですが、日本ではそれほど人気があるペットではありません。WC個体でも幼蛇のうちから飼育すると人にも馴れるようになりますし、成蛇でも時間をかければ馴れます。人の手からマウスをもらうていどの馴化にはそれほど時間がかかりません。また、幼蛇から飼うと成長するにつれて体の模様が変化して行く様子が観察でき、本種を飼ったことのある人はたいてい好きになるようです。あるいは、多くの爬虫類愛好家が、本種を捕獲して飼ってみたのが爬虫類好きになったきっかけであったりします。じつを言うと筆者も、本種の飼育をきっかけに爬虫類飼育の深みにはまってゆきました。子供の頃は親が飼育を許してくれず、爬虫類と言えば採ってきたカメかトカゲしか飼うことができませんでしたけどね。
 筆者が幼少の頃には、人家にはネズミがいるのが当たり前で、夜になると天井裏を走り回る彼らの足音が聞こえ、それを目当てにアオダイショウも人家に棲んでいました。縁の下からずいぶん大きな個体を引っ張りだしたこともありましたし、田舎に帰ると、天井から落ちてきて目が覚めたこともあります。筆者の父親から聞いた話しでは、墓地の石塚の石垣の隙間から、春になるとたくさんの幼蛇が這い出してきたりして、石塚はヘビ塚と呼ばれたりしたそうです。また、祖母からは長い生き物(つまりヘビ)は神の使いだらか虐待してはいけないという話しを聞きました。
 最近は都市部でネズミを見かけることがなくなりましたから、当然アオダイショウも姿を消しましたが、少し田舎に行くと彼らは今も元気にその姿を見せてくれます。と言ってもスズメのように目立つ行動をする動物ではないので、探すとなかなか見つからないんですけどね。

  幼蛇とシェルター
 アオダイショウは、野生で採集したものを飼育することができます。市販のCB個体が入手できれば一番安心ですが、あまり扱っているのは見かけません。ショップの人に頼んでおけば取り寄せてくれる可能性はありますが。しかし野生採集個体でも比較的容易に飼うことができます。マウスに餌づかせることも難しくはありません。コーンスネークと同じ飼育セットで飼育しますが、成蛇を捕獲してきた場合は、大きめのケージを用意した方が良いでしょう。最初はなかなか落ち着かず、激しく動き回りますし、コーンスネークよりも大きな個体がいますからね。ケージ内に樹木を入れると、器用に木登りする様子が見れますが、野生採集個体は樹木を入れると気が荒くなるような気がします。なんででしょう? カーペットパイソンなんかもそうでした、筆者の経験では。また、飼育環境に馴化していない状態で樹木を入れてレイアウトを複雑にすると、世話が難義なので、ヘビがよく馴れて落ち着いてからにした方が良いでしょう。シェルターは、ヘビを早く落ち着かせるのに有効ですが、筆者の場合はシェルター無しで馴らします。その方が早く飼育者に馴れてくれるような気がして。まぁこれは筆者の主観的な見方であって、飼育者によって取り扱いが異なれば状況も変わってくるので、いろいろ試してご自分に合った方法を見つけてください。

  少し育った幼蛇のケージ
 アオダイショウに関しては、山口県岩国市のシロヘビいわゆるアルビノ個体が天然記念物に指定されているので採集できません。あと国定公園等の獣虫保護区の動物も持ち帰り禁止なので、それ以外のところで採集してください。
 アオダイショウは無毒です。しかし野生動物は口内に雑菌をたっぷり蓄えているので、咬まれると感染症を引き起こして、患部がなかなかド派手に腫れ上がることがあります。これがしばしばアオダイショウが毒ヘビと誤解される原因なのですが、ヘビの歯は針のように鋭利なので、傷もそれなりに深くなり感染症も大そうなことになるのでしょう。こうした感染症が大事に至ることはあまりありませんが、腫れ方がひどい場合は医師に診てもらって早く治しましょう。野生の爬虫類はしばしばサルモネラ菌を持っていたりするので、小さなお子さんは噛まれることはもとより接触しただけでも手洗い励行です。野生動物からサルモネラ菌をもらって死にかけた子供を筆者は何人か知っています。
 野生採集個体はまた必ずといって良いほど、腹に寄生虫を宿しています。野生環境では上手く共存している寄生虫が、飼育下では暴れ出すことがあります。餌をちゃんと食べているのに痩せて行くとか、幼蛇がなかなか大きくならないといった症状がある場合は、新鮮な糞を獣医に診てもらって寄生虫の種類を特定し、虫下しを処方してもらいます。ただ、日本のヘビの場合、筆者の経験では寄生虫の問題はあまり気になりません。健康を害すことがないようならそのまま飼い続けてもまず大丈夫です。


  アオダイショウとマムシ
 アオダイショウは、泳ぐのが上手です。頭を水面に出して水の上を這うようにスイスイ泳ぎます。
 アオダイショウは危険を感じると、ガラガラヘビのように尻尾を振動させて威嚇します。コーンスネークや多くのヘビにも見られる習性ですが、アオダイショウのとくに幼蛇はけっこうこれを見せてくれます。飼育下では、これでプラケースの壁面をたたいて音を出したりします。わざとたたいているのか、たまたま当たっているのかはヘビに聞いても答えてくれませんでした。
 アオダイショウの母親は抱卵します、たぶん。そのウワサは聞いていたのですが、筆者は飼育下でそれを目撃しました。ただし、抱卵はしばらくの間だけのようで、母親が抱卵しているところから幼蛇が孵化してくるようなシーンは見たことがありません。繁殖を目指す方は、卵は母親から引き離して管理した方が良いです。アオダイショウが卵食いであることを忘れずに。

  ハンドリング
 アオダイショウは、咬まれて傷が腫れることや、幼蛇はマムシに似ていることが理由で、毒ヘビと思われて退治されてしまうことがよくあります。怯えて飛びついてくる様子もマムシを連想させるのでしょうか。この無毒で安全なヘビが不当な理由で殺害されるのは、たいへん残念なことです。マムシと本種の幼蛇のいちばん解りやすいちがいは、瞳の形でしょうか。マムシは縦長の凶悪宇宙人みたいな瞳をしていますが、アオダイショウの目はまん丸です。ピット器官の有無も決めてですが、マムシのピット器官はニシキヘビのそれのようには目立たないので、慣れないとよく判らないかもです。ちなみにマムシの頭をガン見していると咬まれます。他にも頭の形もちがうし、胴や尻尾の長さもずいぶんちがいます。両者の実物を見たことがある人なら、ちがいは一目瞭然で、どうしてまちがえるのかが不思議なくらいなのですが、日常的にヘビを見慣れている田舎のおじちゃんたちが、マムシの子供を殺したと胸を張ってアオダイショウの幼蛇を見せてくれるのは、ひじょうに残念です。

 マウスに餌づいた幼蛇
 アオダイショウは、危険を感じると強い匂いのする液体を分泌するそうです。残念ながら、筆者はこの臭いを経験したことがありません。野生採集個体でも飼育下で繁殖した幼蛇でも、慣れていなくて盛んにアタックしているようなケースでも、本種を臭いと思ったことがありません。筆者は本種はほぼ無臭の衛生的な動物であると認識しています。たまに、本種を「めっちゃ臭い」などと評する飼育者がいますが「どれだけ虐待してんねん」と言いたくなります。それほど慎重にならなくても普通に飼っていて悪臭を放たれることはまずないと思います。本種に関しては、孵化直後の幼蛇を飼育する場合、けっこうな頻度で強制給餌を行ないます。餌づかせる近道(だと思う)からです。いやがる幼蛇の首根っこを押さえて、無理やりマウスを口に押し込むのですが、この時すら悪臭を感じたことがないので、飼育下で悪臭に悩まされることは考えなくて良いのではないでしょうか。ただし、筆者の嗅覚鈍感説は否めませんけどね。


 脱皮前の白濁
 ●飼育繁殖について
 コーンスネークと同じです。できれば、ケージを一回り大きくし水入れも大きなものを用意しましょう。筆者は何でも同じ飼い方をするなんて言われたことがありますが、きっぱり言ってその通りです。そりゃ種類ごとに、個性ごとに変えなければならないところもありますが、基本的に同じ飼い方を目指しています。こだわり屋さんは納得しないでしょうが、そのこだわりだって動物にとってありがたいかどうか判らない、と思うのです。
 繁殖については、本種に関しては雌雄を常に同居させるといったやり方はしたことがありません。普段は単独飼育、春になればときどき雌雄を同居させるといった方法で良いかと思います。自然界では4月頃から繁殖行動が始まるそうですが、飼育下でも4月中旬から5月頃にペアリングを開始すれば良いと思います。筆者のやり方は、数日同居させたままにし、数日別居させ、また数日同居を続けるというパターンを何回か繰り返し、6月以降は別居させたままにし、メスのケージにウェットシェルターを用意します。ウェットシェルターは最初から入れておいてもOKです。
 産卵が確認できたら卵を母親から引き離して管理し、孵化を待ちます。孵化した幼蛇は 最初の脱皮を待ってマウスを与えますが、筆者の経験ではまず食べてくれません。1〜2度置き餌をして食べなければ強制給餌です。なかなか難しいし、慎重にやらないと幼蛇の首の骨を傷めたりしますが、もともと外温動物食の幼蛇を餌づける最良の手段だと思います。ヘビの繁殖を目指す人にはぜひ会得していただきたいテクニックです。強制給餌が無理なら、本種の繁殖はあきらめろと言いたいくらいです。

  抱卵
 強制給餌によって餌づくまでの早さには個体差がありますが、1〜2ヶ月で人の手からマウスを食べるようになると思います。強制給餌も回を重ねると、マウスを近づけるだけで自ら口を開けるようになります。それでもハンドリングは安易に許してくれませんけどね。
 そして餌よりも重要なのが、飲み水です。幼蛇は意外に飲み水を覚えません。悪くすると脱水症状で死んでしまうことも少なくありません。これはなかなか難儀な問題です。ある飼育者は、幼蛇の頭を無理やり水に浸けて飲み水を教えるとおっしゃってました。筆者の場合は、幼蛇を小さなケージで個別飼育し、ケージの床面積に対して水入れが広くなるようにして、飲み水の場所を見つけやすくしています。幼蛇がどうして飲み水を見つけられないか、たいへん不思議な問題ですが、そもそも爬虫類はそれほど水を必要とせず、毎日水を飲むわけではありません。同様に食事も平気で数ヶ月断てるような生き物ですから、飲食に対する関心が希薄で、幼蛇のうちは水を探すことを思いつかないのかもしれません。秋口に孵化した幼蛇などは、冬場の暖房で過度に乾燥しても水を飲めずに脱水症状を来し、飼育者がそれに気づかずに干からびて死んでしまうことも少なくありません。飲み水をそれほど必要としないだけに、かえって水への餌づけ? 水づけ? には気を配る必要があるのです。顔に水をスプレーしてやるとそれを舐めることもよくあります。ケージの壁面に顔を付けている時にスプレーすると、壁面の水も飲みだします。これが飲み水を覚えるきっかけになることもあります。余談ですが、多くの飲み水を必要とするカメレオンが、まったく水入れを覚えません。カメレオンの飼育者たちはドリップ式の飲み水装置を駆使したりして苦労して水を飲ませます。筆者の場合はカメレオンでも顔にスプレーして飲ませていましたけどね。

  孵化
 ヘビは、哺乳類のように日がな餌を漁っているような暮らしはしていません。極力無駄な動きをせず、たいていは何日も飲まず食わずでボーッとしています。それに比べると、飼育下のヘビは飼育者を見ると餌を期待して寄ってきたり、しばしば水を飲む姿を見かけるなど、ひじょうによく飲食します。おかげで幼蛇も野生のものよりも1年早く性成熟に至るといった素晴らしい発育ぶりを見せますが、これは飼育者がせっせと餌と飲み水の教育をする結果だと思われます。我々は、彼らが外温動物でそれほど飲み食いしないと頭では解っていても、ついつい自分の感覚で食事の心配をしてしまうものです。飼育動物が採餌する姿はいちばん可愛いものですしね。一般的には、ヘビの食事風景は受け付けない人が多いですけど。そうしたわけで、飼育下のヘビと野生のそれとでは、食事事情にかなり隔たりがあるということを知っておいてください。頻繁に飲食し、よく動き回っているのは、飼育下だけのことであって、野生のヘビからすると異常な習性であると言えます。──つまり、野生生活が長いヘビを採集してきて飼育する場合には、そのことも念頭において、ヘビと付き合って行く必要があるということです。

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