ヘビの飼育 

 ヘビはひじょうに魅力的な動物です。ヒモのような細長い体には手足がなく、耳もありません。目も退化的で静止している物体は見えないとも言われています。それなのに俊敏にはい回り、木に登り、泳ぐこともできます。捕食動物として究極の特化を果たし、省ける機能は徹底的に省いた見事な構造になっています。
 我々、手も足も耳もある人間からしますと、何かの間違いのような、進化の失敗ような生き物ですが、けっして少数派ではなく、たいへん成功した動物群として多数の種類が存在する大きなグループを構成しています。
 ヘビは、完全な肉食動物で、生まれた時から優れたハンターとして自力で動物を狩り、孤高の生涯を送ります。同胞とコンタクトするのは繁殖時の雌雄くらいのものです。

 我々とはコミュニケーション能力がまったくちがう異質の存在ですが、飼育動物として自宅に招き入れると、思いのほか友好な関係を築くことができます。動くものはすべて獲物か敵という生活から、餌や水を供給してくれる者との共存という奇妙な暮らしに放り込まれて、その状況に馴れてくれるのです。
 種類や個体差によって飼育者や飼育環境への馴化には差異があり、人間の干渉をすべて受け入れてくれる者から、頑固に野生のプライドを棄てない者まで様々ですが、ほとんどのヘビが人間によって用意された環境で健康を維持し長生きします。
 ヘビの多くは夜行性で、昼行性は少数派ですが、飼育者の都合に合わせて昼間の生活にも馴れてくれます。昼間に餌を与えてもちゃんと食べてくれます。また、多くのヘビとくに幼蛇は変温動物食で、トカゲやカエルを食べますが、それをネズミ(恒温動物)で餌付けすることが可能です。餌用ネズミは安価で入手しやすく長期の冷凍保存が可能で、しかもヘビにとって完全栄養食と言われています。ネズミだけ与えていれば良好な成育状態を維持できるのです。
 ヘビは意外とコンパクトなケージで飼えます。1.5mを越える長さのものでも45cm〜60cmの容器で飼育が可能です。また静かで飼育環境をあまり汚さないので手間もかかりません。水槽で熱帯魚の世話をするより楽です。そのうえ多くの種類が手で触れたり繁殖させたりすることができます。
 静かで衛生的で臭いも少なく、色彩豊かで、たいへん興味深い生態を観察でき、しかも触れ合ったり手で餌を与えたりといったコミュニケーションも可能なこの動物が、どうしてペットとして普及しないのか不思議なくらいなのですが、そのあまりにもユニークなプロポーションが、どうも多くの人々にとって生理的に受けつけられないようですね。

 ヘビは、古来より理解しがたい謎の動物として人々の暮らしから遠ざけられて来ました。化け物の化身にされたり、神の遣いといわれたり、我々とは疎遠な存在として敬遠されて来ました。
 小動物を捕食する残忍な習性も嫌われる要素で、多くの人たちがペットには不向きだと考えているようです。人間自身が肉を食うのに、ヘビの食生活を批判するのはちょっと身勝手な気がしますけどね。
 ヘビは嫌われたり恐れられたりして当然、それが人間社会の常識みたいになっていますから、飼育動物として家庭に迎え入れるのは容易なことではありません。同居人の理解を得るのも難しいでしょうし、近隣住人にヘビを飼っていることを知られるのにも問題があるかもしれません。多くの点でひじょうに理想的なペットになり得るのに、人々の既成概念によって遠ざけられてしまうのは残念なかぎりです。
 そしてヘビは脱走名人です。まさかと思うような小さな隙間からやすやすと脱走してしまいます。脱走したヘビが人の目に触れたら大変です。飼育者はご近所で嫌われ者になってしまうかもしれません。
 筆者はヘビの愛好家として、この愛すべき動物を忌み嫌う社会風潮を歓迎したくはありませんが、そのことを否定するのは間違いです。ヘビが脱走しないようにしっかりと管理し、自分の趣味や嗜好を他人に押しつけず、日常生活においては常識的に、紳士的に振る舞うべきです。飼育者に人望があれば、ヘビを飼っていることも周囲の人々に認めてもらえるものです。
 人間はひじょうに好奇心旺盛な生き物で、怖いもの見たさと申しましょうか、身の安全が保障されれば、奇異なもの危険なものを見てみたいという気持ちがあります。ホラー映画がヒットするのもそのためですね。だからきちんと管理できていれば見てみたいという人は少なくありません。筆者宅にも見物客が何度か訪れたことがあります、爬虫類にはまったく興味がない人がね。
 一般常識的に忌避される生き物を飼う場合、そのことを誰にも知られないようにする必要はありません。それよりも日常の生活態度をきちんとし、自分が変人ではなく常識人であることを周りに認めてもらえれば、ヘビを飼っていることで近所付き合いや職場付き合いで疎外されることはありません。
 日本ではまだまだひじょうにマイナーな爬虫類の飼育者が、これからもっと増えて、飼育や生態に関する情報がさらに蓄積され、人と他の生き物との協調性について多くの人が学んでくれるようになることを期待したいものです。
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