ヘビの進化と分類 

 地球上生物を分類するのに、(かい)、(もん)、(こう)、(もく)、(か)、(ぞく)の6つの単位が用いられることは、動物好きの人ならご存知ですよね。これはパソコンの中のデータ管理と同様に階層式の分類になっています。マイコンピュータの中にいくつかのドライブがあって各ドライブがホルダーに区分されていて、その中にさらにいくつかのホルダーがあるといった具合に、界という単位の下に門という単位があり、門はその下の綱という単位の集まりといった具合に整理整頓されています。しかも生物の分類の場合、これが進化系統をうまく表現した、じつに優れた方法になっています。
 まず、地球に出現した生命は菌類として遺伝子を備えた生物としての形を得、これが植物そして動物へと分化してゆきます。生物分類の最も大きな単位は、菌界植物界動物界に分けられます。
 その中の動物界は、10以上の門に分けられますが、昆虫やカニ、エビを含む節足動物門や、貝類やタコ、イカを含む軟体動物門は多くの陸棲動物を輩出しており馴染み深いですね。我々人間は、背骨を持つ動物群として脊椎動物門(ただし現在の主流の考え方では脊椎動物亜門)に含まれ、ヘビも同じく背骨を持つ仲間です。
 脊椎動物門(亜門)には、魚類を定義するいくつかの綱と、両生綱、爬虫綱、鳥綱、哺乳綱が含まれますが、ヘビはご存知爬虫綱です。一般的に爬虫類(るい)と呼ばれているグループも専門的には爬虫綱(こう)となるわけです。
 そして現生の爬虫綱の仲間には、4つの目が含まれます。大むかしには恐竜を含めもっと多くの目が存在したんですがね。ムカシトカゲ目(2種)、ワニ目(23種)、カメ目(約500種)、有鱗目(8000種近く)が現在まで生き残っています。最後の有鱗目は、現生爬 虫類の95%以上を占める大所帯で、進化の歴史は他と比べると新しく、言わば最もホットな動物群です。
 ヘビの仲間は、有鱗目に属するトカゲの仲間から進化して来た、さらにホットな動物群で、その勢いはすさまじく、新参者にしてじつに3000以上の種を含みます。

ヨーロッパヘビトカゲ
 陸棲動物にとって手足がないというのは、我々人間の感覚からするとずいぶん奇異なことのように思えますが、有鱗目の仲間には四肢が退化した動物がけっこういます。ヘビトカゲやヒレアシヤモリ、ミミズトカゲの仲間は一見するとヘビそっくりで、四肢が退化しているばかりか体も細長いひも状です。
 有鱗目には、トカゲやヤモリ、ヘビなどを含む多数の科が存在しますが、それらはトカゲ亜目ヘビ亜目およびそのどちらにも分類できないミミズトカゲ亜目の3つのグループに大別されます。トカゲ亜目には、イグアナ科やヤモリ 科といった多数の4足動物が含まれ(一部足が退化している)、ヘビ亜目にはいわゆるヘビの仲間が含まれます。ミミズトカゲ亜目はどちらにも属さない少数派と言えども、160種近い仲間がいます。
 このように、爬虫類の仲間において四肢を持たない動物は大変な数に登り、足が退化するという進化がけっしてマイナーなものではないことが解ります。

 爬虫類はもともと4足動物であり、そこから進化した足のない動物は、強力なライバルとの競争を避け、狭いすき間に逃げ込んだり、地中生活に移行するといった逃避的生活への適応から四肢の退化を進めて行ったのでしょう。また地中生活では視力や聴覚はあまり必要ではなく、彼らは音と光のない静かな生活へ順応して行きました。
 ミミズトカゲの仲間は、トカゲからヘビへの移行型という位置づけではなく、ヘビとは別にもっと最近になってから、やはり地中生活への適応という形でトカゲ類から分化したようです。新生代になってから出現した彼らは、中生代後期に出現しすでに数多くの仲間を輩出していたヘビ類に太刀打ちできるはずもなく、小型で地味な動物のまま現在に至っています。

 爬虫類にはじつに多くの足のない動物が存在しますが、上述した動物たちはいずれもヘビの祖先型ではなく、それぞれまったく別系統の進化で足のないひも状の体型に至ったようです。
 では、ヘビはどのトカゲ類から分化したのかと言うと、まだ明確に解明されていないそうです。最有力候補とされるオオトカゲ科には、コモドドラゴンのような巨大な捕食者から、小さな樹上生活者、水辺のトカゲまで様々な動物が含まれ、その中の極めて地味な小動物が地中生活へ移行し、ヘビに至ったのでしょう。
 また、ヘビの発祥が水棲動物であるという説もあるそうです。確かに一部のヘビは水棲生活に適応していますし、ほとんどのヘビが優れた泳ぎ手です。しかしながら、筆者はこの説は支持していません。水棲生活への移行は、ヘビが成功した仲間として多様性を究め、多くの環境に適応放散していった結果のひとつだと思います。

 ヘビ亜目は、原始的な小数の仲間を含むメクラヘビ下目と、より進化的で多様性と大型化を究めた真蛇下目に大別され、真蛇下目はさらに、現在たいへん繁栄しているものの原始的な形態を残すムカシベビ上科と、より新しいタイプのヘビ上科に分けられます。
 ムカシベビ上科には、地味な地中生活者もいればボアやニシキヘビのようにダイナミックな大型動物もいます。ヘビ上科の仲間は、一部かなりの大型動物も存在しますが、どちらかと言うと大型化よりも多様性を進め、じつに多くの種類が存在します。コブラやハブなどの猛毒を持つ仲間、あるいはアオダイショウやシマヘビといった日本でも馴染み深い動物たちがこれに含まれます。

 では最後に、アオダイショウというヘビを、分類単位を付けたフルネームで記述してみましょう。
 動物界/脊索動物門/脊椎動物亜門/顎口上綱/爬虫綱/双弓亜綱/有鱗目/ヘビ亜目/真蛇下目/ヘビ上科/ナミヘビ科/ナメラ属/アオダイショウ
 6つの単位以外に"亜"だとか"下"だとか"上"なんかが付いたたくさんの単位があって専門的でかっこいいですね。脊椎動物門は、原始的な脊索動物と共に脊索動物門に入れられ、亜門に格下げするのが現在主流の考え方だそうです。顎口上綱は、脊椎動物を顎の有無で分けた分類、双弓亜目は爬虫綱をこめかみの形態の差異で分けた分類です。それぞれ進化系統をよく表した分類なので、興味のある方は専門書なんかをひもといてみてください。
 属名は、極めて近縁な種をまとめた分類学の最小単位です。1つの種を学名(ラテン語で表記)で表す場合、属名と種名を連記して記述することになっています。化石生物を扱う古生物学ではとくに属名が重要で、ステゴサウルスだとかチラノサウルスといった恐竜の名前はじつは種名ではなく属名です。有名な恐竜T・レックス(チラノサウルス・レックス)は、チラノサウルス属のレックスという種ということになります。

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